「CSS Nite」というイベントでは、毎年12月に「Webデザイン行く年来る年」と銘打ち、その年のWebデザインをテーマにしています。
2017年は、「CSS Nite Shift11」として12月16日に開催。最近はこれに行かないと1年が終わらないな、などと考えるようになってしまっているので、昨年末もいそいそと足を運びました。
この記事ではそのCSS Nite Shift11の中から特に気になった点をピックアップして、昨今のデザインのポイントを振り返っていきます。
なおCSS Niteは有料イベントなので事細かく内容には触れず、特に印象に残った箇所をピックアップして、私見をもとに振り返る形式にします。
この10年で何が変わった?
基調講演は、「今までの10年。これからの10年」と題して行われました。担当された長谷川恭久氏は、Webデザイナー、コンサルタントとして活躍されています。長谷川氏は毎年の基調講演を担当されているだけに、いつも(何を話そうか・・・)と四苦八苦されているそうですが、今年はすんなりとテーマが見つかったとのこと。
というのも、ある事が10年目だったからです。
2017年にWeb関連で10周年を迎えたもの。何かわかるでしょうか。
そう、iPhoneです。
厳密には日本での発売は2008年からですが、10周年yearとして盛り上がり、記念モデルのiPhone Xも登場しました。Androidの登場はそこから少し遅れますが、iPhone登場と共にスマートフォン時代が幕を開けたのは間違いのないところです。
そのため基調講演は、スマートフォンの登場以降大きく変わった「2007年から2017年の変化」をテーマにしておこなわれました。
この記事はCSS Niteの具体的な内容には踏み込まない前提ですが、とても興味深い変化なのでここでは少し細かめに出してみましょう。
Webデザインに求められるものの変化です。
【2007年】
- 表現力が重視されていた。
- 作ることで成果とみなされた。
- 改善ではなく、大規模な改修が行われていた。
【2017年】
- (Webサイトの役割として)売上、ブランドへの貢献が求められている。
- 専門領域が複数ある。
- 共同作業が行われるようになっている。
いずれも、非常に頷けるものです。
しかし、
「いや、2007年と言っているけどうちはまだこの考えだ」、「2017年のやり方、考え方というのはよくわからない」
という方もいらっしゃるではないでしょうか。
実際には「2007年仕様」のやり方が、実はまだまだ世の中に多く残っているというのもよく解ります。
2007年のやり方を、少しかみ砕いて解説していきましょう。
表現力とは見た目です。ここが皆さんが気になるのは分かります。やっぱり見栄えには目が行きますし、好き嫌いでモノを言いたくなります。
作ることを成果とするとはWebサイトやページの構築を、大規模な改修とはリニューアルを指します。作ることが成果とされている場合には、フルリニューアルで実績を見せなければなりません。
しかしこの2007年の考えが今も強いのは、いただけません。
ビジネス面で一番関係がある売上とブランドへの貢献に対して、2007年のやり方では十分な効果には結びつきません。よしんば効果が出たとしても、それは運や偶然のもので、次に結びつくものではないでしょう。
2017年のやり方をするために必要なのは、次のようなものです。
- データドリブン(アクセス解析などの数値に基づく仮説や検証)
- KPIの設計
- 効果検証をするためのシナリオ設計
- ABテスト
- グロースドリブンデザイン
Webサイトのビジネスにおける比重が低い企業や、BtoBサイトなどではどちらかと言えば2007年のやり方に近い、というのが実際のところではないでしょうか。
しかし既に時代は大きく動き、Webサービスを中心にしている企業では、2017年のやり方、考え方にチェンジしているケースがほとんどです。
Web担当者、部門はこうした変化について社内へと啓蒙する役割も担いますので、まずは自分たちが2017年の考え方にアップデートし、社内へ浸透させていきましょう。
コラム:
この基調講演ではスマートフォン以外の変化で、2007年頃に需要が高かったものとしてFlash、当時は影も形もなかったものとしてSNSが紹介されました。しかし実は、2007年頃にはもう一つ主流のものがありました。フィーチャーフォン(ガラケー)です。2005~2007年くらいだったと思いますが、「キャリアの公式サイトへの審査が出せるかどうか」とうスキルが重視され、制作ではキャリアごとにコードを作り数多くの機種をデバックしまくる日々・・・という時代でした。今はあれも、すっかり失われた風景です。
実際のWeb制作会社の仕事ニーズ
基調講演と対をなすものとして、続けてクロージング・セッションの内容を紹介します。
Web制作会社を経営、自らもアートディレクターとして第一線で活躍されている中川直樹氏が担当。こちらもいつも興味深い内容となりますが、今回は自社の仕事内容の変化を2010年と2017年を比べて、具体的に解説されました。
Web制作会社へのニーズというのは、クライアントから出るものなので、当然今の世の中の需要が集約されています。中川氏のWeb制作会社の強みや特徴もあるので普遍的とは言えませんが、基調講演と重なって見える部分が数多くありました。
【2010年にニーズが高かったもの】
- ブランドサイト、コーポレートサイト制作
- プロモーションページ、LP、メディアタイアップ
- サービス、ビジネス開発、顧客管理(上の二つよりは少なめ)
【2017年時点で大きく変化があるもの】
(割合上昇)
- サービス、ビジネス開発、顧客管理
(割合減少)
- ブランドサイト、コーポレートサイト制作
- プロモーションページ、LP、メディアタイアップ
「サービス、ビジネス開発、顧客管理」の伸び非常に大きなもので、基調講演の「売上、ブランドへの貢献」と重なる変化でした。一方、各種サイトやページ制作の比重は減少したとの事。もはやWebサイト(ページ)というモノを納品して事足りる、という時代ではなくなっているのです。
加えてYouTube掲載動画の割合も増加を見せたとの事で、これも時代をよく表しています。またネイティブアプリ制作も割合が減少しているそうです。
プッシュ通知はネイティブアプリを無理に作らなくても多くのブラウザでできるようになっていますし、アプリを作ってもグロースにきちんと取り組まないとビジネスへの貢献にならない事が分かってきたからではないか、と仮定できます。
また中川氏は以前も別の講演で話していたのですが、Web以外のジャンルも一緒にデザイン監修をして欲しい、といった依頼が増えてきているそうです。
具体的には店舗の内装デザインなどですが、昔のように「Webとリアルは別のもの」という考えがなくなってきていて、その企業が提供するものはWebもリアルも同じコンセプトで出す、という考えが広がっているようです。
コラム:
ここでも出たように、最近はデジタルとリアルを一緒に考える、開発を同時進行させていくという話を聞きます。よく事例として出されるのは某ホテルのキーで、専用アプリでチェックインをしたらそれがカードキーになる、そのため操作がすぐに分かりやすいようになっている、というものです。Webだけに目が行っている人はサイトのUIだけをUXとして語りますが、実際のUXはその企業やサービスに対してユーザーが体験していく、一連の流れすべてを指します。具体的にはユーザーが広告を見てWebサイトへ訪問、そこでお店の予約をして来店、サービスを受けてその後に来店のお礼メールを受け取って閲覧する・・・という、ネット上とリアルでの行動すべてで等しく良い体験をさせないと、優れたUXとはなりません。Web上のUXだけを考えている人は、「事業やサービス全体でのUX」として考えるようにしていきましょう。
印象に残ったこと
基調講演、クロージングセッション以外で印象に残ったことをいくつかピックアップしていきましょう。
AIスピーカーの出現によるデザインの変化
デザイントレンドの一つとして、AIスピーカーが登場したことによるデザインの変化が紹介されました。
例えばAIスピーカーを使って温泉探しをする時、行きたい日程とシチュエーションを考えてWebページをピックアップしてくれるAIスピーカー。
まず「温泉を仕事で予約する必要が出た。値段も指定がされている場合」です。
この時には、いろんな情報が掲載された宿泊のポータルサイトが選ばれてくるでしょう。
しかし「週末にゆっくり過ごしたい」という条件で探している場合には、雰囲気の良い写真とそれにマッチするコピーが掲載された、ピンポイントの温泉宿の情報を出してくるのではないか、という話でした。
つまりそうした音声検索+AIに対応できるWebページづくりを、今後は念頭に置かないといけないというわけです。
インクルーシブデザイン
アクセシビリティをさらに広げ、誰もがどんな環境でも閲覧しやすいサイトを作っていく「インクルーシブデザイン」。
海外ではインクルーシブデザインの取組みをPRしてブランディングに役立てているという事例の紹介もありました。
アクセシビリティが盛り上がっていると聞きますが、一般の事業会社のWeb制作ではまだ意識されている印象はありません。
個人的にはビジネスに役立つ、役立たない以前の取組みとして広がっていって欲しいと考えています。
フォント
純粋に、いろんなバリエーションがあって非常に楽しめます。
「貂明朝」はフォントというジャンルの幅の広さを十分に感じます。
「筑紫Q明朝」は、日本の文字の美しさを再発見できます。
特徴がありすぎるフォントはコーポレートサイトには取り入れにくいでしょうが、イベントやキャンペーンページに取り入れて、いつもと違う変化を出すのはありでしょう。
まとめ
ここではイベントの数十分の一程度しか紹介できませんでした。またWebデザインそのものが非常に多様化、複雑化しているので、半日近くのCSS Niteに参加しても、とても1年の動きを網羅しきれるものではありません。
そんな中で実感したのはやはり、「変化」です。
10年前どころか、5年前の知識や認識も大きく時代遅れになるのがデジタルの世界です。
また最近は変化のスピードがより早まり、多様化していると感じます。
ダーウィンの進化論ではないですが、Webに従事する以上は「変化に対応できる」能力こそが最も大切なのかもしれません。
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